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表大雪南ルート縦走2日目 ~ヌプン小屋-忠別小屋~

朝4時30分起床。薄曇りの中、晴れ間も見え中々の状態だったが、準備をしている内に空に厚い雲が立ちこめてイヤな状態になってくる。それでもyahさんは「登れば雲の上に出て晴れますよ」と楽観的。救われるというか何というか(^^;。確かに上空の雲の動きも緩やかで、それほど荒れないかもしれないという期待を持って5時40分にヌプントムラウシ避難小屋を出発した。登山ポストの情報では先発隊がいるようだ(日付が8/12の4時30分入山になっていたが、昨日yahさんが確認した時は、この記録はなかったとのこと)。

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昨日確認した橋を渡り、沢沿いの道を登り始める。地図では徒渉点は数回しかないと思っていたが実際には何十回も徒渉を繰り返すことに...先行していたyahさんがルートが良くわからないということで先頭を変わる。登山口近くはピンクテープも多かったが、いざ沢道に入ると激減し確かにわかりにくい。途中、迷い道に入ったりもしたが、その都度遠くに見える標識やピンクテープを発見して進む。元々ピンクテープは多くあったようだが、その半数は地面に落ちたり流されたりしているようだ。100m近く目印がないこともあり不安にさせられる。

登山道は700m地点で沢本流から支流に分岐する。ここでshizuさんが腹痛を訴える。困った。腹痛なんて想定外だった。どうしようかと思っていたら、yahさんが薬を持っているというので難を逃れる。小雨も降り始めたので雨具やザックカバーを準備しつつ、shizuさんの状態が良くなるのを待って出発した。支流に入ると沢の上を歩いて行く。ここもピンクテープが少ないが左右に枝道もないのでルートは明瞭だが何となく不安は付きまとう。沢がだいぶ細くなって来た頃、「右」と書かれた看板が出現。急坂を登ると樹林帯の登山道に入る。倒木を避けつつ沼ノ原山までツラい登りが続く。まるで天人峡ルートとそっくりだ。ここで男性二人の先発隊に追い付いた。我々と同じく忠別小屋まで行く予定だったが、この雨で予定変更して、沼ノ原でテントを張ると言う。確かに彼らのペースでは忠別小屋は無理があるかもかしれないが、この天候では沼ノ原のテン場は水没する可能性があることを伝え先行する。沼ノ原山のコルから少し登ると沼ノ原の台地に出てきれいな笹の刈り払い道に出た。

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しばらく進むと前を行くyahさんが「スズさん、これどっちに行けばいいの?」と聞いてくる。どうしたのかと思って前を見たら、湿地のような広大な空間が拡がっていて驚いた。先人のブログで写真は見てたものの、こんなに広いのかと呆然とする。ガスっていてルートの入口がわからない。しょうがないので湿地の周囲をグルっと回ってルートを探すことに、shizuさんとyahさんはその場で待機してGPSアプリで位置確認をしている。とりあえず標識は見つけたが、「ヌプン・・」の文字しか読み取れず全く役に立たない。「クソっ、新得町ちゃんと管理しろよ」と悪態をつくがどうしようもない。ここでGPSに沼ノ原分岐の位置情報を登録していたのを思い出し、GPS表示を頼りに進むと熊笹に覆われた踏跡に到達した。これを行くのかと思いつつ、二人を呼び笹薮を先行する。

熊笹をダブルストックで払いながら進むに連れ、GPSの残り距離が減って来てルートが正しいことを示してくれる。ただ雨で濡れた背丈ほどの熊笹を掻き分けて進むのも大変だ。この悲惨さを是非伝えたいと写真に撮ってみるが、所詮写真が撮れるような場所はまだマシな地点で、そうでないところは笹に埋まってとても写真なんて撮っていられない。笹払いの圧力で腕は既にゴアテックスを貫通してビッチョリ。小雨の他に風も吹いていて止まると超寒い。早く抜けたい一心だったが、慣れない二人のペースが上がらず10mほど進んで停止を余儀なくされる。後続の二人にとっても、眼鏡が濡れて視界が悪かったり、笹薮に埋まった穴や石に足を取られたりと大変だったらしい。GPSの残り距離を読み上げながら、道の状態と「頑張れ!」と声を掛けて少しずつ進んで行く。

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そしてGPSの残り距離が15mを差した時に愕然とする。はっきりしていた踏跡が消えてしまったのだ。迷走した跡が至るところに点在している。そんな中、おそらくココだろうと思う少し開けた水たまりに足を踏み入れると、グチョリと登山靴がイヤな感触を捉えて大きく沈んだ。そう、ここは湿原だ。へたなルートを取るとマズい。すぐさま足を引き抜き、別ルートを探す。とは言っても迷走した跡があるだけで、それらしいものは何もない。同行の二人も心配そうに私を見ている。もうGPSの残距離15mを信じて笹の上を進むしかない。覚悟を決めて倒れて歩き易そうな笹の上を進むことにした。長い、まだ合流しないのか思って焦り始めたとき、待望のクチャンベツルートの木道が見えた。「抜けたっ!」思わず叫んでいた。二人も続いてくる。沼ノ原分岐よりも10mほど北側にずれたが結果オーライだ。先程とは反対側から分岐の様子を見て納得した。2008年に訪れた時は石狩岳方面への踏跡はしっかり確認できたが、もうすっかり熊笹で覆われている。その向こうには、最初に私が足を踏み入れた水たまりが見える。どうやら最初に選択した道が正解だったようだ。後日確認したGPSの軌跡にもハッキリと記されていた。

休憩したい気持ちもあったが、風を遮るものの少ない湿原に抜けたことで風が吹き抜け、腕が更に冷たくなってきた。このまま放って置くとマズい。「ちょっと寒くなって来たから、この先の樹林帯で休憩しよう」と二人には悪いと思ったが早々に大沼を抜けて風雨を避けられる樹林帯を目指す。しかし途中で右に折れる木道を見落として、大沼湖畔のキャンプ指定地に来てしまった。「何で?」キツネにつままれたような心境だ。最後尾のshizuさんに反転して左に折れる木道がないか確認してもらう。あった。良かった。木道は多少朽ちているがまだまだ使えそうだ。写真の樹林帯で乾いたインナーを着て一段落。完全に冷え切った腕にも体温が戻る。危なかった。低体温症ってこうやってなっていくんだ。

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樹林帯で休憩した後はクチャンベツ川源流まで結構な急坂を登っていく。yahさんはかなり辛そうだ。時間はまだ12時前。予定した時間より30分ほど遅れているが十分余裕はある。「いいよ、ゆっくり行こう」と声を掛け一歩一歩登っていく。急坂を登り切った後、時間を掛けてクチャンベツ川源流に到着。これに沿って南側に付けられた登山道を登っていく。花がとてもきれいに咲いているが、もう全員足を止めて花を見たり写真を撮ったりする余裕はない。そんな中、エゾコザクラの白花を一輪見つけた。足を止めて「これは珍しいから」と声を掛けて写真を撮る。思えばこの後、五色岳山頂に着くまでで皆が笑顔を見せた最後の瞬間だったかもしれない。もうレンズが結露して拭いても拭いても曇ってしまってまともな写真が撮れない。カメラ本体も結露してアイセンサーが誤作動、液晶画面が使えず重い荷物を背負ったまま腰を屈め、ファインダーをのぞいて撮影した。1日目の行程で写真を撮るのはこれが最後になった。

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2008年に訪れた際の記憶から、五色ヶ原に出れば多少のハイマツ漕ぎはあるものの、緩やかな木道が続くため一気に抜けようと考えていた。風雨も強まって来たため「少しペースをあげよう」と言ってみたものの現実は過酷だった。以前よりもハイマツも熊笹も手強く成長し、木道のない区間はまた薮漕ぎに。木道自体も熊笹に完全に覆われて途中でyahさんが木道を踏み外したり危険なシーンが続く。yahさんはもう眼鏡が完全に濡れて見えないらしい。危険なので私が先行し危険箇所の状態を伝え、熊笹が木道を覆っているところではストックを前に突いて木道の位置を確認しながら進むように指示を出す。shizuさんは最後尾を黙々と登ってくるがペースは確実に落ちてきている。もうみんな一杯一杯だ。こんな所で休みたくないが、疲労が蓄積して動けなくなるともっとマズいと思い、風が辛うじて避けられるハイマツの影を見つけて、一旦、小休止にする。5分も休憩してないが、それでも随分と回復したようでペースが上がった。これなら何とかなりそうだ。現在位置を確認して残り距離を伝えつつ先行する。五色岳近くの、昔、水を汲んだ記憶のある場所も見えてきた。「もう15分ほどで山頂!頑張れ!!」とそれを伝える。しかし山頂付近でまた道がわからなくなる。二つに分岐していて一つは沢のように水が流れて来ている。もう一方はハイマツの中だ。自信はなかったが「迷った時は沢沿いは避ける」という自分のポリシーを徹底してハイマツを選択した。正解だった。すぐに次の木道が見えてくる。「もうすぐ!」、「もうすぐ!!」と声を掛けて山頂目指して登る、最後にハイマツを越えると見覚えのある五色岳の岩場が目に入った。実際に歩いた時間は言った通り15分ほどだったが1時間ほどにも感じた。

風雨が強い五色岳山頂はスルーして低木のトンネルになっている忠別小屋へのルートに入って腰を落とす。ここなら落ち着いて休憩できる。助かった。yahさんもすぐ着いてきた。ただshizuさんが来ない。ヤバイ。五色岳を通り過ぎて化雲のほうに行っていたらどうしようと思ったら姿が見えた。「おーい、こっちこっち」と叫んで呼び寄せる。後日聞いたら分岐標識の写真を撮っていたとか...人が心配しているのに随分と余裕だな、おいっ(^^;。低木のトンネル内でしばらくグッタリと休憩。思えば昼食も食べていない。それでもみんなお腹は空いてないとのことだ。確かに精神的にそれどころではなかった

休憩後、忠別岳避難小屋を目指す。避難小屋への分岐が見えて来た頃に急にお腹が鳴った。目的地が間近ということで身体のほうも安心したらしい。小屋に入ってからもトラブル発生。電子機器類がことごとく死亡した。NIKON1はファインダーがくもり、メカニカルシャッターが下りなくなってしまった。GPSは電源が切れず、携帯電話は電源が入らない。暖かい小屋の中に入って一気に結露したようだ。まぁ、無事に辿り着けたことを思えば軽い代償かと思いつつ、明日からの山行で写真が撮れないことが気がかりに思い、電子機器類をシュラフの中に入れ、温めつつ一夜をともにした。


ヌプントムラウシ避難小屋(5:40)→ヌプントムラウシ登山口(6:00)→石狩岳分岐(10:00)→沼ノ原分岐(10:40)→大沼キャンプ指定地(10:50)→五色の水場(11:40)→クチャンベツ川源流出合(12:25)→五色岳(14:35)→忠別岳避難小屋分岐(15:20)→忠別岳避難小屋(15:35)