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十勝岳連峰・大雪縦走期2日目 ~美瑛富士避難小屋から南沼キャンプ指定地~

朝、4時起床。天候不純。重い気持ちで朝食を取りつつ、オプタテシケ山までは行くことに決める。あきらめが悪いが、運良く晴れて縦走が続けられる可能性を信じて重い荷物を背負っていく。他の二人は美瑛岳と美瑛富士に、御年配はオプタテシケ山ということで各々出発する。私以外は小屋にデポして身軽な状態。小屋の外は相変わらずガスが掛かりドンヨリとした空気。朝露に濡れたハイマツを掻き分け、足取り重く進んでいく。すぐの岩場でナキウサギの観察などしながら、ゆっくりと登って行こうとするがナキウサギにも嫌われたよう殆ど姿を捉えられない。こんな視界の悪い中、重い荷物背負って何やってるんだろうと思った矢先、スーっと晴れ間が見え始める。奇跡到来。みるみるうちに美瑛富士と美瑛岳が顔をのぞかせる。「やったぁ」、ここまで遅かったペースが一気に早くなる。身体は縦走する気満々だ。こうなったらオプタテシケを8時30分には通過したい。同じペースで登っていた御年配を申し訳なく思いつつ一気に離して進んでいく。晴れたのは良いが今度は急速に気温が上昇。日差しはギンギン。ハイマツ漕ぎで濡れた服も一気に乾いてしまった。ベベツ岳を過ぎた岩場で着替えようとザックを降ろした時に、ジーっと物思いにふけっているようなナキウサギを発見。こういう瞬間があるから山はやめられない。ありがとうとお礼を言って当面の目標のオプタテシケ山を目指す。

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少し遅れたが8時15分にオプタテシケ到着。これから行く稜線を眺める。無数のピークを貫いて一本の道がトムラウシまで続いている。ここに立って眺めているだけで心が折れそうになる。昨晩、小屋で出会った人達に縦走することを話したら「オプタテから先は覚悟を決めないと行けないからね」と言っていたが本当にそうだ。自分の脚でこの距離が歩けるのか急に不安になるが信じて行くしかない。

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休憩の後、進み始めるといきなりの痩せ尾根、片側は崩落していて落ちたら間違いなく天国に行けそうだ。地図では標高差700mはあるものの、ジグを切りながらを降りていくため、それほどの困難は予測してなかったが、痩せ尾根を越えると巨岩帯が拡がっていて結構体力を消耗する。おまけに、途中で脚をすべらせて足首をひねってしまう。幸い、登山靴のサポートで普通に歩く分には問題ないがひねると痛い。猛暑で水も随分となくなってきた。昨日、水場で汲まなかったのが効いている。何とか700mの下りを降りきったあたりで、ほんのわずかに残った雪渓から水を取る。あと数日で涸れそうな状態なので本当にラッキーだった。煮沸している時間がないのでフィルターで濾して飲料水として確保。ここで、今朝、南沼を出発して来たという青年に出会う。お互いの走破時間を交換して、何とか16時ぐらいに南沼キャンプ指定地に着けそうな感触を得る。途中の三川台で泊まるのもいいだろうと。振り返ると降りてきたオプタテシケ山がドーンとそびえ立っている。オプタテシケ山がこんなに奇麗に見える場所はここしかないだろうなぁと感動してしばらく眺めていた。

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さてオプタテシケ山を降りた段階で、標高は1400mまで下がった。ここからは標高1500~1600m台の無数のピークを登ったり降りたりして進んでいく。最終的には標高1700mの三川台、そして1970mの南沼キャンプ指定地が目標だ。道はハイマツと熊笹のブッシュで時折、ダケカンバがクネクネと曲がって立っている。湿度は限りなく100%に近く、気温も29℃。不快指数はMAXに到達する。予測に反して水の減る速度が速い。もはや水を飲んでも汗が蒸発しないわけだから、意味はないはずだが喉の渇きが止まらない。照りつける日差しに体力も奪われていく。涼しい風でも吹いてくれれば、どうということはない標高差の緩い登りが続いていくが、休み休みのためペースは全然上がらない。これはまずい。約18kmの行程の内、まだ1/3ほどしか来ていないのにと気持ちがあせり始める。地図で残り距離を確認しながら目標到達時刻を計算しつつ進んでいく。このペースでは16時に三川台がギリギリかもしれない。

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コスマヌプリを越えると比較的勾配がゆるやかになり、少しペースが回復する。それでも30分動いて休憩を繰り替えさないと熱中症になりそうだ。幸いハイマツのブッシュが続いているため日陰を探すのは容易。もう半径6km圏内には誰一人いない。慎重にいかないと本当にヤバイ。トムラウシ山の南には巨大な積乱雲が発達し始めて時折落雷の音が聞こえる。ラジオは新得から鹿追・上士幌までの大雨洪水警報と落雷注意報を伝えている。あの雲がこっち来るとマズいなと思いながらも、照付ける太陽を恨めしく見上げながら少しは曇って欲しいと矛盾する考えを抱く。休憩を挟みつつもペースは良好で時速1.5~2km/hをキープしている。あれほど遠かった三川台の台地もすぐ近くに見えてきて、気がついたらツリガネ山を通り過ぎて最後の1580mピークに到達していた。この時点で三川台に15時、南沼16時も可能かもしれないと希望が出てくる。脚は疲労で重いが気分的には先が見えて晴れやかだ。1500mのコルに降りて最後の登りに取り掛かる。ハイマツのブッシュの中、ついに最後の水を飲み干してしまう。あとはポットのお湯が残っているだけ。渾身の力で三川台へと続く急坂を上がる。

三川台では、水が涸れているためか今日は誰もテントを張っていない。下には雪渓と沼地が拡がっていて、とても奇麗なのだが、すぐそこに水があるのに何で手に入らないんだろうという考えが先行する。三川台からは片側が切り立った崖なので、疲れた脚がもつれないよう気をつけて進んでいく。見覚えのあるトムラウシ山周辺の景色が見えてくると一緒に人の姿も確認した。キャンプ地から散策に降りてきたらしい。今日は朝から誰にも会っていないので、人が傍にいるって本当に安心する。一言二言会話をするが喉が乾いているせいか、声がかすれてうまく出せない。

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南沼キャンプ指定地には念願の水が大量にあった。雪渓も例年より随分と残っている。いっぱい使いたいのでテントは水場のすぐ横にした。早速、水を取りにいく。汁物中心に食事をしてようやく落ち着いた頃にはもう日が傾いている。体力もだいぶ回復して、テントの周囲で写真を撮ったり、お酒を飲んだりしつつ、広島から来たという隣のテントの人と話をする。中々に辛い一日だったけど、終わりよければすべて良しで、すべて帳消しになってしまった。一旦、眠ったあとは空を見上げる。一片の曇りもない星空。南の空には月、北の空には北斗七星とカシオペアが明日進むべき道を示していた。


美瑛富士避難小屋(5:50)→石垣山(6:45)→ベベツ岳(7:00)→オプタテシケ山(8:15)→双子池キャンプ指定地(9:55)→1668mピーク(11:00)→コスマヌプリ(11:25)→1558mピーク(12:20)→ツリガネ山付近1580m(13:35)→三川台(14:55)→南沼キャンプ指定地(16:30)